双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効です。日本で用いられている気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。
その他、日本では双極性障害に対する適応が認められていない薬の中に、海外で双極性障害に対する有効性が確認されている薬がいくつかあります。気分安定薬であるラモトリギン(日本では難治性のてんかんに対して適応が認められています)、非定型抗精神病薬であるクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどです(これらは、日本では統合失調症に対して適応が認められています)。
このうち、最も基本的な薬はリチウムです。リチウムには、躁状態とうつ状態を改善する効果、躁状態・うつ状態を予防する効果、自殺を予防する効果があります。しかし、リチウムは副作用が強く、使い方が難しい薬でもあります。リチウムを飲む時は、血中濃度を測りながら使わなければいけません。リチウムを服用してすぐの濃度は不安定なので、通常は、前の夜に服用した翌朝など、血中濃度が落ち着いた時間に採血して、血中濃度を調べます。有効な血中濃度は0.4mMから1.2mMくらいの間で、これを超えると副作用が出やすくなります。リチウムの副作用として、とくに飲み始めに下痢、食欲不振、のどが渇いて多尿になる、といった症状が出ることがあります。また手の震えは、有効濃度で服用していても長期に続く場合があり、なかなかやっかいな副作用です。
さらに、血中濃度が高くなり過ぎると、ふらふらして歩けなくなり、意識がもうろうとするなど、様々な中毒症状が出る場合があります。甲状腺の機能が低下する場合もありますが、これは甲状腺ホルモン剤を合わせて飲むことで対処できます。
体調が変化した時(食事や飲水ができないことが続いた時、腎臓の病気にかかった時など)には、急激に血中濃度が高くなって中毒症状が出る場合があるので、血中濃度をチェックする必要があります。また、様々なほかの薬(高血圧の薬など)との組み合わせによって、リチウムの血中濃度が急に高まったり、中毒が起きやすくなったりする場合があります。
別の病院でもらった薬でも、同じ院外薬局で出してもらうようにすることで、飲み合わせの悪い薬がないかどうか、薬剤師に確認してもらえるでしょう。リチウムなどの気分安定薬に加えて、うつ状態の時には、抗うつ薬が処方される場合もあります。しかし、抗うつ薬の種類によっては、かえって症状が悪くなってしまうこともあるので、注意が必要です。とくに三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬は、躁状態を引き起こすことがあるので、双極性障害の方はできる限り避けたほうがよいでしょう。また、まだはっきりしたことはわからないのですが、双極性障害の方が抗うつ薬を飲むと、アクティベーションシンドロームと呼ばれる、かえって焦燥感などが強まって悪化してしまう状態が起きやすいのではないか、と疑われています。
うつ状態で病院に行った時に、過去の躁状態について話をしそこなった場合という場合は、医師がこうした可能性について注意を払うことができません。うつ病として治療を受けているけれど、過去に躁状態や軽躁状態があったかもしれないと思う人は、必ず医師に伝えてください。とくに「うつ病と診断されて抗うつ薬を飲んだけれど、症状が悪化した」という人は、双極性障害である可能性も考えて、医師に報告し、よく相談してください。精神科の治療は、副作用との戦いです。精神疾患には有効な治療が多くあるのですが、どれも副作用があるものばかりです。
とくに双極性障害の治療薬であるリチウムの副作用は、けっして軽いものではありません。しかし副作用のない薬はなく、双極性障害の治療薬は限られています。「副作用が出たから、この薬は合わない」とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、これをみすみす失っていることになってしまいます。
薬には副作用があることを前提として、自分の病気のコントロールのために、どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、という姿勢で臨むことが大切です。