不安障害の主症状は不安です。不安とは漠然とした恐れの感情で、誰でも経験するものですが、はっきりした理由がないのに、あるいは理由があってもそれと不釣り合いに強く、または繰り返し起きたり、いつまでも続いたりするのが病的な不安です。不安のあらわれ方にはいろいろな形があり、それによって不安障害の下位分類がなされています(ただし原因の明らかなものは原因によって分類)。以下に、パニック障害での症状を解説します。
パニック障害の症状をまとめますと、パニック発作、予期不安が3大症状ということができます。中でもパニック発作、それも予期しないパニック発作がパニック障害の必須症状であり、予期不安、広場恐怖はそれに伴って二次的に生じた不安症状といえます。そして症状のみならず広場恐怖によるQOLの低下が、この障害のもうひとつの特徴でした。
パニック障害かどうかを決めるための第一の条件は、「予期しない発作」であることです。「パニック発作」はパニック障害の特徴的な症状で、急性・突発性の不安の発作です。突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に襲われるもので、多くの場合、患者さんは心臓発作ではないか、死んでしまうのではないかなどと考え、救急車で病院へかけつけます。しかし症状は病院に着いたころにはほとんどおさまっていて、検査などでもとくに異常はみられません。そのまま帰宅しますが、数日を置かずまた発作を繰り返します。
パニック発作は恐怖症、強迫性障害、PTSDなどのほかの不安障害、うつ病、統合失調症、身体疾患や物質関連障害などでも同様の症状がみられますが、パニック障害で経験するパニック発作は、「予期しない発作」です。原因やきっかけなしに起こる、いつどこで起こるかわからない発作を「予期しない発作」といいます。恐怖症の人が(たとえばヘビ恐怖症の人が恐怖対象のヘビに出会った時)に起こるパニック発作は、「状況依存性発作」であり予期しない発作ではありません。ただし、パニック障害の患者さんに、両方のタイプの発作が起こることはありえます。
パニック障害では通常は「また発作が起こるのではないか」という心配が続くことが多く、これを「予期不安」といいます。発作を予期することによる不安という意味です。「心臓発作ではないか」「自分を失ってしまうのではないか」などと、発作のことをあれこれ心配し続け、口には出さなくても発作を心配して「仕事をやめる」などの行動上の変化がみられます。いずれも、パニック発作がない時(発作間欠期)も、それに関連した不安があり、1カ月以上続いているということを意味しています。
パニック障害は広場恐怖を伴うものと伴わないものに分けられます。「広場恐怖」というのは、パニック発作やパニック様症状が起きた時、そこから逃れられない、あるいは助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける症状をいいます。そのような場所や状況は広場とは限りません。一人での外出、乗り物に乗る、人混み、行列に並ぶ、橋の上、高速道路、美容院へ行く、歯医者にかかる、劇場、会議などがあります。広場というより、行動の自由が束縛されて、発作が起きたときすぐに逃げられない場所や状況が対象になりやすいことがわかります。
「パニック様症状」というのは、パニック発作の基準は満たさないが、それと似た症状という意味です。パニック障害ではほとんどの患者さんがこの広場恐怖を伴っていて、日常生活や仕事に支障を来す場合が多くみられます。サラリーマンであれば電車での通勤や出張、主婦であれば買い物などが、しばしば困難になります。誰か信頼できる人が同伴していれば可能であったり、近くであれば外出も可能であったりしますが、その結果、家族に依存したり、行動半径が縮小した生活を余儀なくされる場合が多く、広場恐怖を伴うパニック障害によるQOL(Quality of Life,生活の質)の低下は、見かけ以上に大きいといわれています。